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研究室紹介/未来戦略インタビュー

  • 第3回「光の新たな使い方を切り拓き、計測技術にブレークスルーをもたらす」
    ~東京大学先端科学技術研究センター 小関研究室~

    インタビュアー(以下、I):本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは、小関先生のご専門について教えていただけますか?

    お話:小関 泰之 教授 OZEKI Yasuyuki / 東京大学 先端科学技術研究センタ

    小関 泰之(おぜき やすゆき)教授(以下、小関):こちらこそありがとうございます。私は、光技術を駆使して生体内の分子の働きを可視化し、生命現象の理解に貢献する新しい顕微鏡技術の開発に取り組んでいます。特に、誘導ラマン散乱(SRS)顕微法の高度化やその応用展開に注力しています。私たちが用いているレーザーはピコ秒領域で動作しており、アト秒科学とは時間スケールもアプローチも大きく異なりますが、「光の新たな使い方を切り拓き、計測技術にブレークスルーをもたらす」という点では、共通するビジョンがあると感じています。

    I:「SRS顕微法」とは、どのような技術なのでしょうか?
    小関:SRS顕微法は、2色のレーザーパルスを用いることで分子振動を高感度に検出する非線形光学顕微鏡技術です。観察対象を蛍光分子で染色せずに分子情報を取得し、生体を可視化できるのが特徴です。また、ラマン標識分子と呼ばれる特殊な分子振動を持つ分子を用いて生体を染色することで、従来の蛍光では得られなかった新たな情報を引き出すことも可能です。私たちはこれまでに、高速波長可変レーザーを用いて複数の分子振動を画像化できるSRS分光イメージングシステムを開発してきました。

    I:
    最近はどのような方向に研究を発展させているのでしょうか?
    小関:現在は、ラマン標識分子を活用した代謝イメージング・超多色イメージング・超解像イメージングによって、生体内の複雑な構造・動態・分子間相互作用を高次元的に捉える研究に注力しています。また、SRS顕微法をバイオだけでなく、材料解析にも応用し、非破壊での化学構造解析や物性評価を目指しています。

    I:
    以前は大規模なSRSイメージングにも取り組まれていたと伺いました。
    小関:はい、過去には多数の細胞を対象にしたSRSイメージングにも挑戦しました。高速波長切替光源を用いて、流路中の細胞を多色SRSで撮影し、1万個以上の細胞の分子構成を可視化する技術を確立しました。これにより、微細藻類の栄養分析や血液細胞の無標識判別などが可能になりました。

    I:量子光学も研究に取り入れていらっしゃると聞きました。
    小関:そうですね。SRS顕微鏡の感度をさらに高めるために、量子光学の概念であるスクイーズド光を用いて、レーザーの量子的なゆらぎを低減し、信号対雑音比を向上させる試みも行っています。量子技術と光イメージングの融合によって、新たなブレークスルーを目指しています。

    I:分泌イメージングについても取り組まれていると伺いました。

    白崎 善隆 准教授 SHIRASAKI Yoshitaka 東京大学 先端科学技術研究センター

    小関:分泌イメージングは、現在、白崎善隆准教授を中心に進めている研究テーマです。彼のグループでは、蛍光サンドイッチ免疫染色法と全反射蛍光顕微鏡を組み合わせて、細胞がどのように情報伝達物質を分泌するのか、そのリアルタイムな様子を可視化する技術「LCI-S」を開発しています。炎症やアレルギーに関わるサイトカインの分泌などを、生きた細胞のまま観察できるのが特徴です。この技術は、創薬や免疫評価、さらには細胞治療の品質管理など幅広い応用が期待されています。

    I:先生のご研究とも重なる部分がありそうですね。
    小関:まさにその通りです。我々が進めている分子振動イメージングは、代謝物などさまざまな分子振動を光学的に検出するアプローチですが、分泌イメージングは注目する特定の生体分子を蛍光抗体技術を用いて高感度かつリアルタイムに捉える点が非常に補完的です。細胞間コミュニケーションをより深く理解するためには、細胞活動を多面的に計測するアプローチが重要であり、両者のシナジーが非常に面白い展開を生むと期待しています。

    I:今後のビジョンについてもお聞かせください。
    小関:今後は、生命科学や医学への応用はもちろん、材料科学や環境科学との連携も深めていきたいと考えています。たとえば、半導体材料における応力や結晶性の非破壊評価など、SRSの特長を生かした新しい材料解析にも取り組んでいます。ラマン顕微法の可能性を広げ、科学の多様な分野に貢献できる技術基盤を築いていきたいですね。

    ー本日は貴重なお話をありがとうございました。

    研究室をご案内いただいた車 一宏(くるま かずひろ)助教

    Ozeki Group
    小関 泰之 | 東京大学 先端科学技術研究センター
    白崎 善隆 | 東京大学 先端科学技術研究センター

  • 第2回「精密加工で最先端科学を支える」
    ~東京大学先端科学技術研究センター 三村研究室~

    大は太陽観察から小は細胞観察まで、三村研究室は独自の精密なものづくりにより天文宇宙分野から細胞生物学分野まで広範な精最先端科学に貢献しています。極限の超精密なものづくりの研究を行うとともに、大型放射光施設SPring-8とX線自由電子レーザーSACLAにおいて顕微鏡を開発し、天文分野の研究者と太陽観察用望遠鏡ミラーの開発を行っています。また、切削加工、研削加工、放電加工、レーザー加工などあらゆる加工現象に対して放射光X線による高速撮像による解析を行っています。各加工法の専門家や各加工メーカとも連携し、加工現象の学理解明の研究を行っています。

    研究内容

    1.超精密加工法の開発

    原理的に原子を一層ずつ除去するメカニズムを有する物理化学現象を利用し、原子単位の超精密加工、平坦化加工法の開発を行っています。最近は、アクリル粒子やアクリル板を用いた加工法の開発を行っています。アクリル板と水のみによる平坦化加工法は、低環境負荷、低コストの研磨手法として注目されています。

    2.高精度ミラー製造プロセスの開発

    自由曲面や円筒などの複雑形状を持つ高精度ミラーの製造プロセスの開発を行っています。当研究室では、超精密加工法の開発に加え、光を用いた超精密形状計測、電気化学反応を利用した超精密形状転写法の開発を行っています。開発した技術を用い自由曲面においてナノ精度を実現しています。

    3.X線顕微鏡、X線望遠鏡の開発

    大型放射光施設SPring-8およびX線自由電子レーザーにおいて、軟X線顕微イメージングシステムの開発を行っています。これらの顕微鏡には開発した高精度ミラーが用いられています。生体細胞の化学状態の50nm分解能イメージングや、X線非線形光学現象の観察などが可能になりました。

    4.X線による加工現象の解析

    切削、研削などの機械加工、放電加工、レーザー加工などの熱的加工、など、あらゆる加工は何等か物理現象を用いて表面から物質を除去することになります。加工の学理解明とは、この物質除去のメカニズムを理解することになります。三村研究室では、強力な放射光X線を用い、様々な加工法の物質除去過程の観察と解析を行っています。特に、SPring-8で高速撮像により様々な加工現象の観察を行っています。各加工技術の専門の先生や加工機メーカ、工具メーカと共同で複雑な各加工現象の物質除去メカニズムの解明を目指しています。

    超高精度自由曲面ミラー アト秒パルスの集光に用いられる
    X線望遠鏡にも使用されている大型のウォルターミラー 製造装置もすべて研究室で開発した。

    三村研究室Webサイト

  • 光電場デザインと物質操作の科学

    第1回「光電場デザインと物質操作の科学」
    ~東京大学生産技術研究所 芦原研究室~
    Spectroscopy and Quantum Control with Designed Light

    超短パルスレーザーは、多数の周波数成分の重ね合わせによって実現されるパルス状の光です。 私たちはこの超短パルスレーザーを用いて、原子・分子・固体などの性質を計測・制御する手法の創出に取り組んでいます。新しい光の場を作り出すことで、これまで出来なかった超高感度計測、あるいは、これまで出来なかった物質操作を達成することが、私たちの夢です。研究を通して、新規光源のみならず、原子・分子の高感度検出、環境計測技術、化学反応・相転移の自在な制御、超高速エレクトロニクスの新原理などへの応用展開が期待されます。

    研究内容

    赤外超短パルスレーザー / Mid-Infrared Ultrafast Laser

    私たちは、波長2ミクロン帯の赤外波長域で発振する超短パルス赤外レーザーを開発しています。赤外波長域で広いスペクトルをもちつつ、指向性と集束性に優れるため、アト秒科学および振動分光に大きく寄与すると期待されています。

    We are developing an ultrashort infrared laser that emits in the 2 micron infrared wavelength range. The laser is expected to make a significant contribution to attosecond science and vibrational spectroscopy because of its broad infrared spectral range, excellent directivity and focusing.

    光電場駆動の科学 / Optical-Field-Driven Science

    高強度な光電場は、アト秒スケールで電子の運動や状態を制御できる可能性をもっています。私たちは、フェムト秒レーザー技術とプラズモニクスを融合することにより、金属表面あるいは固体中の電子をアト秒スケールで駆動する技術を開発し、新たな物性計測法および新たな超高速エレクトロニクス機能の創出に取り組んでいます。

    The intense optical field of ultrashort pulses offers a possibility to control electron wave packets and electronic states on the attosecond time scale. By combining femtosecond laser technology and plasmonics, we drive electrons on attosecond time scale to create novel schemes of measuring physical properties of matter and novel ultrafast electronics functions.

    芦原研究室Webサイト